ユーチョくん

旧世紀末、とある高校に、二人のユースケがいた。裕輔(18)と、佑介(16)だ。裕輔は先輩だったから、愛称ユースケを通した。佑介は遠慮し、ユーチョと称し始めた。なぜか。ユーチョはヤンキィだったけれど、郵便貯金を信奉していたのだ。

たぶん、その頃がいちばん、郵貯が暗躍した時代ではなかろうか。郵政改革を旗印にした小泉政権誕生の数年前で、ある意味で、郵貯は飽和状態にあった。何を語らずとも、郵貯は庶民を支えた。

ユーチョは、担任の私に、夢を語った。以下は、その断片的な会話である。

ユ 先生、おれ、バイト始めたぜ。
私 何を始めた
ユ レストランの皿洗い。時給800円で、土日に8時間ずつやる。
私 いいな。(素早く暗算して)月に5万か。その金、どうする。お前んち、金持ちだから、あっても余るだけだろ。
ユ うん。だから、隣の郵便局で貯金して、金ためる。
私 何に使うんだ。

それに続くせりふを、私は「わからない」と推定した。だが、彼の返答は違った。ユーチョの家庭は、地元で数軒のマンションやアパートを経営する資産家だ。「隣の郵便局」とは、当時街中にあった、家族でやっているような小さな局だろう。そして、断っておくが、高校とはいっても、不登校生やヤンキィ系を主とするサポート校的な性質の学校だ。「高校卒業」を、資格のひとつととらえ、生徒には、生きるたくましさを教える。教員にも、ワイルドさが求められた。

私 どうした? 訳なんて、つまらんもんは、無いのか。
ユ ためてさ、困ってるダチに、無利子で貸してやる。
私 ……

私は、サポート校の教員としては、線が細すぎた。それ以上、会話がつながらなかった(推測できなかった)。ユーチョは、仲間たちの防波堤だったのだ。《続く》